よくある質問

A.1 すでに最近のいくつかの質の高い研究成果によって、前立腺がん検診を受診すると死亡率が低下することがすでに証明されています。PSA検診の有効性については、「まだ結論が出ていない」、あるいは「ほとんど効果がない」、との意見や発言を時々目にしますが、これらは前立腺がんの専門家以外のコメントで、数年前の古いデータに基づくもので、現時点では正しい意見ではありません。これまでの世界でPSA検診に関する多くの研究がなされていますが、世界的に認められている前立腺がん検診の専門家が、質の良い研究と、悪い研究とに分けて科学的に検証した結果では、死亡率低下効果は確実で、しかもその効果は大きいことが証明されました。
そのうちのひとつのスウェーデンのイエテボリで行われた無作為化比較試験(研究参加者を無作為に「検診受診を積極的に推奨する群:検診群」と「検診受診の介入をしないで観察する群:コントロール群」に分けて、その後の死亡率を比較する質の高い研究)は、14年間と比較的長い期間経過観察期間をしており、前立腺がん検診を地域社会で導入した場合の、生涯の前立腺がん死亡危険率の低下効果をかなり正確に示した研究で、2010年8月に研究成果が発表されました。イエテボリ在住の50~64歳の男性約2万人を、1万人ずつ検診受診を積極的に推進する検診群と、検診受診の案内をしなかったコントロール群に無作為に振り分けました。検診群に振り分けられた人たちの約4分の3の人たちが、実際に検診を受け、前立腺がん死亡者数の比較を行ったところ、14年間の観察で、検診群の死亡率はコントロール群と比べ44%も低くなることがわかりました。

A.2 そんなことはありません。日本で行われた研究では、何らかの排尿症状が出てから泌尿器科外来を受診して発見されたがんの転移がんの割合は30~40%と高く、症状が出てからでは治療が間に合いません。それに対し、PSA検診で発見されたがんの転移がんの割合は5~6%と低いことがわかっています。
2007年のスウェーデンからの報告では、スウェーデンのイエテボリ在住の50~64歳の住民32,298人から20,000人を抽出し、このうち前立腺がんの既往のない人を9,972人の検診群と9,973人のコントロール群に無作為に振り分けたところ、検診群の9,972人のなかで7,516人が実際にPSA検診を受診し、10年間で810人の前立腺がんが発見されました。また、コントロール群の9,973人からは同じ期間に442人の前立腺がんが発見されました。

転移がんとPSA値が100ng/ml以上のがんを「進行がん」と定義した場合、検診群は24人であったのに対し、コントロール群では47人の進行性前立腺がんが発見されました。PSA検診の導入により10年間で進行がん罹患数が49%も減少しており、検診実施により進行がんの罹患率が明らかに減少することが、信頼性の高い研究で証明されました。本邦でも前立腺がん検診で発見されるがん(検診発見がん)と、主に何らかの排尿に関する症状が出てから外来で発見されるがん(外来発見がん)の長期経過観察による予後の比較が行われています。その結果、相対生存率(平均余命と同じ生存率であれば100%の生存率と評価する方法)の比較では、検診発見がんは、外来発見がんよりも予後が良好であり、検診発見がんの相対生存率が10年間にわたって100%前後であったのに対し、外来発見がんでは10年間で約40%と不良でした。これらのことから、症状が出るまで待っていては診断が遅れ、生存率が明らかに低くなります。

A.3 ご家族に前立腺がんの患者さんがいる場合、その当時者が前立腺がんなる危険は高くなるといわれています。それ以外にも、前立腺がんには多くの発病の要因がありますが、家族歴があった場合には、まずは40歳代で一度PSA検査を受けることをお勧めします。
前立腺がん発症の危険性が非常に高い遺伝性前立腺がんは、日本人の頻度は0.7%と低いのですが、関連性がそれよりは低いといわれる家族性前立腺がんは比較的多く、これまでの研究で、第一度近親者(親・兄弟・子供)のがん発症年齢が若いほど、そしてその数が多いほど当事者のがん発症危険度は高くなることが報告されています。
しかし、前立腺がんの家族歴は曖昧な部分も多く、他に食生活環境、加齢、発がん物質など様々な要因も関係するので、「父親のがん死」という情報だけで危険を正確に予測することはできません。最近、比較的若年齢(40歳代)でのPSA値が、個々人のそれまでに蓄積されたがん発症に関わる危険因子の曝露や遺伝的素因を反映する、正確ながん発症予測因子であることがわかりました。
今回のように、少なくとも1人の近親者の方に前立腺がんの家族歴があるような場合では、通常より危険性が高いため、まずは40歳代からPSA検査を受け、まずは自身の危険度をより正確に把握し、その後は、適切な間隔(本HP:図 前立腺がん検診・PSA検査から精密検査受診までの流れをご参照ください)

で継続的に検診を受診することをお勧めします。一般的に、住民検診での受診対象年齢は50歳からと決めている自治体が多いので、無症状であれば人間ドック等で受診、排尿に関してお困りの症状がある場合にはお近くの医療機関を受診して相談してください。

A.4 前立腺肥大症は、多くの人は60歳以降に発症することが多く、小さい肥大症を含めると、一生涯で約8割の方がかかる病気です。悪性の病気ではないので、一般的には、自覚症状により治療を行うか否かを判断します。生活に支障が無ければ、治療を行わないで様子を見る方も多数います。生活に多少なりとも支障が出るような排尿に関するトラブル(おしっこが出にくい、近い、残尿感があるなど)があれば、数種類ある前立腺肥大症の内服薬を開始し、一番ご自身に合った薬を医師の診察を受けながら、選んでいくことが通常です。9割以上の方は、薬の治療だけで排尿状態が改善しますが、一部の方は、薬の治療では良くならないことがあり、手術療法(現在は、レーザー手術が可能です)を行う事になります。

A.5 一般的に、性格のおとなしいがん(グリーソンスコアが6以下の場合)、PSA値が10以下、前立腺内のがんの範囲が狭い(前立腺針生検でがんが見つかった本数が2本以下)、PSA値を前立腺体積で割った値が0.2以下(医師が計算します)が、監視療法の適応になります。このようなおとなしく、がんの小さいと予測される方に対して、慎重に監視(3カ月ごとのPSA検査+1年、4年、7年後の前立腺針生検で経過を見る方法)をおこなうと、1年で約2割の方が、監視療法の継続の基準を超えて、積極的な治療(手術や放射線治療など)を勧められ、5年間では約4~5割の方が積極的な治療を行うように勧められることがわかっています。

A.6 前立腺がんで手術するのは、前立腺内がん癌がとどまっている、早期の状態ですので、手術後の成績は極めて良いのですが、5年間で2~3割の方が、PSA値が上昇するリスクがあると言われています。そのため、少なくとも10年間は経過観察が必要です。しかし、PSA値が上昇し、再発した場合でも、がんの進行を遅らせるホルモン療法(男性ホルモンを低下させる治療方法) 、場合によっては放射線治療を追加し、適切に治療を追加することで、10年間で99%以上の生存率が得られることがわかっています。

A.7 PSA値が軽度高値ではじめて泌尿器科を受診すると、専門の医師は、MRIや超音波などの画像検査を追加、あるいはより詳しいPSA検査(がんで上がりやすいPSAと、前立腺肥大症で上がりやすいPSAを調べる方法:フリー/トータルPSA比といいます)を行い、より詳しくがんの確率を予測します。今回、PSA値が軽度高値で、おそらく専門医より「経過をみましょう」と言われている状況と思われますので、前述の詳しい検査で、がんの確率が低いと予測しているのだと考えられます。このようにPSA値が安定している場合には、前立腺生検などを行わずに、半年ごとにPSA検査を行い、PSA値が上昇しないか様子をみることがままあります。一番確実なPSA値を低下させる方法は、前立腺を縮小させる前立腺肥大症の内服薬を飲むことですが、その必要があるか否かは、専門の医師が判断します。食生活の改善などでPSA値を確実に低下させる方法はありません。

A8 前立腺全摘除術の主な合併症は、尿失禁と勃起不全です。尿失禁は手術後3ヶ月を過ぎると徐々に改善すると言われていますが、それでも、約1割の方は、日常的に、尿失禁用のパットをあてて生活することになります(1-2枚の交換がほとんど)。年齢が若い人ほど、尿失禁のリスクは低いこともわかっています。以前の手術では、尿が常に漏れるような、重傷の尿失禁(全尿失禁)になることが稀にありましたが、最近は尿を漏らさないようにする筋肉(尿道括約筋)を温存する技術が進み、全尿失禁の合併症は、極めて稀です。前立腺が大きい方に対して、前立腺全摘を行った場合には、尿の出がよくなり、排尿状態が改善することもありますので、手術前にご自身の前立腺の大きさ、年齢などから、手術後の尿失禁リスクについて、専門の医師より話を聞くことが大切です。

A9 泌尿器科の専門医であれば、PSA値が高値ではじめて泌尿器科を受診したのであれば、必ずPSA値の再検、より詳しいPSA値の測定(フリー/トータルPSA比:他のご質問の回答をご参照ください)、超音波検査、直腸診、場合によってはより詳しい画像検査(MRI検査)を行い、がんの可能性をより正確に診断します。PSA検査は、全てのがん腫瘍マーカーの中で、最も正確にがんを診断することができると言われ、PSA値が4~10では約3割、10~20では4~5割、20以上では5割以上の方にがんが見つかることがわかっています。もし、ご質問のような医師の対応を受けた場合には、別の医師に相談することを強くお勧めします。

A10 前立腺がんで手術するのは、前立腺内にがんがとどまっている、早期の状態ですので、手術後の成績は極めて良いのですが、5年間で2~3割の方が、PSA値が上昇するリスクがあると言われていますので、少なくとも10年間は経過観察が必要です。PSA値が安定していれば、一般的には5年以降は年に1回程度のPSA測定で結果を見ますので、現在は手術後の経過は非常に良いと考えられます。医師の指示通りに受診すれば良いと考えます。

Q11 がんの中には、針生検をすることが、がんの播種(はしゅ:体内へのがんが広がってしまうこと)につながる可能性がまれにあるために禁止されているものがあります。泌尿器科では精巣にできる腫瘍です。前立腺がんの場合には、針生検によるがんの播種(はしゅ)の危険は極めて少なく、がんが疑われて専門医より針生検を勧められた場合には、必ず受けることをお勧めします。逆に、専門医により針生検を勧められても、生検を受けなかった場合には、将来、がんが進行し、転移してしまうリスクが明らかに増えてしまうことがわかっています。

A12 腹腔鏡手術を行うには、泌尿器腹腔鏡認定医の資格が必要です。以前の東京慈恵会医科大学での前立腺がんに対する腹腔鏡手術の死亡事例があってから、学会が厳しく基準を設けています。そのため、現在では、出血量は開腹手術より明らかに少ないことがわかっています。しかし、尿失禁や、性機能温存の確率は開腹手術と腹腔鏡手術、ロボット支援腹腔鏡手術では、それほど変わりが無く、手術後の再発率も変わりが無いと報告されていますので、出血の少ないことが、現在の一番の腹腔鏡手術のメリットと考えられます。

A13 おしっこが出にくい原因として一番多いのは、前立腺肥大症ですが、肥大症ががんに変わることはありません。しかし、前立腺肥大症にがんが隠れて一緒に存在することはままありますので(好発年齢がほぼ一緒)、前立腺肥大症で治療を受ける前、また治療を受けている間も定期的にがんがないかどうかの検査(主にPSA検査) を受けることを強くお勧めします。